パスツールやコッホによる微生物の研究が始まってから今までの100年間、微生物学の発展は目覚ましいものがあり様々な成果が私たちの生活に応用されてきました。

細菌内から様々な酵素、ビタミンが発見されたり、発酵による人類に有益な物質も発見され、今では自在に微生物の働きを利用できるようになりました。

100年前より発酵とは微生物の無酸素状態化での呼吸作用に伴うエネルギー獲得手段であり、微生物により作られた酵素という物質が起こす触媒反応と定義されてきましたが、今ではさらに広い説明が加えられています。

当時はアルコール発酵や乳酸発酵、酢酸発酵などの発酵が主流でしたが、その後にリンゴ酸発酵、グルコン酸発酵などの有機酸発酵、アミノ酸などの調味料の発酵生産、ビタミン、アルカロイド、ホルモンなどの生理活性物質の発酵生産、抗生物質や抗がん剤などの医薬品の生産、その他、タンパク質の生産や酵素の生産など発酵による生産物は多岐にわたっています。

この中でも黒麹のカビによるクエン酸発酵、細菌によるグルタミン酸発酵、ビタミン、抗生物質、ステロイドの生産は有酸素の状態での発酵により生産されています。

そのようなわけで、従前の無酸素状態化で起こる有機物の分解という認識だけでは不足で、有酸素状態での発酵方法も加えなくてはなりません。

つまり、現状に適している発酵の定義は、微生物の機能を物質生産に応用し、それが人間に有益であることを発酵と呼ぶことが自然です。

発酵技術の第一期

微生物学の創成期と位置付けられ、レーベンフックの微生物の発見、パスツールによる発酵現象の証明、コッホによる細菌や酵母の分離、ブフナーによるアルコール発酵の発見など、基礎的なことがこの時期に確立され、ヨーロッパにおける酒造技術を躍進させました。

この結果、パスツールによる低温殺菌法の確立や酵母の培養技術や添加技術に向上がみられ、この時期以降の酒造では以前のように腐敗や有害菌による汚染が減少しました。

また、ブフナーによるアルコール発酵酵素の発見は、その後の発酵の仕組みの解明に大いに役立ちました。

発酵技術の第二期

発酵技術の応用はやがて生産物の大量生産に利用されましたがきっかけは戦争に兵器としてその生産物が必要になったからです。

兵器に使われる火薬は黒色火薬を使っていましたが、ノーベルがニトログリセリンを発明するとその威力は黒色火薬の7倍持つことが分かり、ヨーロッパ各国はニトログリセリンの大量生産方法の確立を競っていました。

ニトログリセリンは、発煙硝酸と濃硫酸にグリセリンを混ぜることで合成されますが、原料となる義理セリンは天然の油脂を加水分解して生産していました。

グリセリンは、ニトログリセリンの原料以外にも医薬品や塗料、セロファンの製造にも使われることから大切な軍需物資でした。

第一次大戦になると大量の物資を消費することからグリセリンが欠乏し、ドイツは微生物の発酵によりグリセリンを大量に生産する方法を開発しました。

グリセリンは酵母が糖を発酵させるときにわずかに産生されますが、ここに亜硫酸ナトリウムを加えることで大量にグリセリンを生産できることがわかりました。

この後、各国で同様に微生物発酵を利用したグリセリンの製造法の確立が相次ぎました。

更にこの時期、アセトンの発酵とセルロイドの製造法が確立され、セルロイドは写真のフィルム、塗料の原料として利用されるようになりました。

また、この時期は抗生物質が発明され感染症の治療に劇的な進歩がありました。

抗生物質は微生物によってつくれれる化学物質で、この物質は微生物の発育や代謝を阻害することから微生物が原因となる感染症の治療に使われます。

細菌には他の種類の細菌の増殖を阻害する働きがありそれを拮抗現象と言い、抗生物質はこの拮抗現象を利用しています。

世界で初めて人間の治療に利用された抗生物質はペニシリンで、イギリスのフレミングという名の科学者により発明されました。

ペニシリンは実験中たまたまブドウ球菌の培地に青カビが紛れ込み、青カビの周囲のブドウ球菌が死滅していたことから効果が発見され、青カビにちなみペニシリンと命名されました。

その後、ペニシリンは世界中で利用されるようになり多くの人々を感染症から救い、不治の病とされた梅毒なども簡単に治療できるようになりました。

発酵技術の第三期

第二次世界大戦後、50年代から70年代の20年間は戦前の基礎研究の上にこの分野での研究が急激に発達しました。

発酵の技術を利用した食品や飲料の生産技術や微生物が産生する酵素をりようした化学物質や医薬品も次から次へと新しい製品が市場に送り出されました。

この時期の発酵技術に大きな影響を与えたのが生体制御発酵と呼ばれる方法で、本来は微生物の菌体を合成するために使われるべき物質を合成経路から離脱させ菌の外に排出される、いわば異常代謝をおこさせて利用する方法です。

現在ではタンパク質を構成するすべてのアミノ酸が工業生産が可能となり、乳酸や酢酸などの古くから製造されていたものに加え、現在では約65種の有機酸が発酵法により工場生産が可能となっているようです。

また、生体制御発酵により製造可能となったのは有機酸以外にビタミン、ステロイドホルモンなど生理活性物質や医薬品の発酵生産まで行われるようになりました。

更に生体制御発酵は細菌が産生する様々な酵素の大量生産をも可能にして、食品や醸造にとどまらずに医療分野はいうに及ばず洗剤などにも使用されるようになりました。

この時期は高度経済成長による公害や産業廃棄物の問題もありましたが、微生物の働きによる分解で汚水や廃棄物を浄化する方法も確立され環境分野でも微生物発酵が利用され始めました。

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