発酵技術の種類

パスツールやコッホによる微生物の研究が始まってから今までの100年間、微生物学の発展は目覚ましいものがあり様々な成果が私たちの生活に応用されてきました。

細菌内から様々な酵素、ビタミンが発見されたり、発酵による人類に有益な物質も発見され、今では自在に微生物の働きを利用できるようになりました。

100年前より発酵とは微生物の無酸素状態化での呼吸作用に伴うエネルギー獲得手段であり、微生物により作られた酵素という物質が起こす触媒反応と定義されてきましたが、今ではさらに広い説明が加えられています。

当時はアルコール発酵や乳酸発酵、酢酸発酵などの発酵が主流でしたが、その後にリンゴ酸発酵、グルコン酸発酵などの有機酸発酵、アミノ酸などの調味料の発酵生産、ビタミン、アルカロイド、ホルモンなどの生理活性物質の発酵生産、抗生物質や抗がん剤などの医薬品の生産、その他、タンパク質の生産や酵素の生産など発酵による生産物は多岐にわたっています。

この中でも黒麹のカビによるクエン酸発酵、細菌によるグルタミン酸発酵、ビタミン、抗生物質、ステロイドの生産は有酸素の状態での発酵により生産されています。

そのようなわけで、従前の無酸素状態化で起こる有機物の分解という認識だけでは不足で、有酸素状態での発酵方法も加えなくてはなりません。

つまり、現状に適している発酵の定義は、微生物の機能を物質生産に応用し、それが人間に有益であることを発酵と呼ぶことが自然です。

発酵技術の第一期

微生物学の創成期と位置付けられ、レーベンフックの微生物の発見、パスツールによる発酵現象の証明、コッホによる細菌や酵母の分離、ブフナーによるアルコール発酵の発見など、基礎的なことがこの時期に確立され、ヨーロッパにおける酒造技術を躍進させました。

この結果、パスツールによる低温殺菌法の確立や酵母の培養技術や添加技術に向上がみられ、この時期以降の酒造では以前のように腐敗や有害菌による汚染が減少しました。

また、ブフナーによるアルコール発酵酵素の発見は、その後の発酵の仕組みの解明に大いに役立ちました。

発酵技術の第二期

発酵技術の応用はやがて生産物の大量生産に利用されましたがきっかけは戦争に兵器としてその生産物が必要になったからです。

兵器に使われる火薬は黒色火薬を使っていましたが、ノーベルがニトログリセリンを発明するとその威力は黒色火薬の7倍持つことが分かり、ヨーロッパ各国はニトログリセリンの大量生産方法の確立を競っていました。

ニトログリセリンは、発煙硝酸と濃硫酸にグリセリンを混ぜることで合成されますが、原料となる義理セリンは天然の油脂を加水分解して生産していました。

グリセリンは、ニトログリセリンの原料以外にも医薬品や塗料、セロファンの製造にも使われることから大切な軍需物資でした。

第一次大戦になると大量の物資を消費することからグリセリンが欠乏し、ドイツは微生物の発酵によりグリセリンを大量に生産する方法を開発しました。

グリセリンは酵母が糖を発酵させるときにわずかに産生されますが、ここに亜硫酸ナトリウムを加えることで大量にグリセリンを生産できることがわかりました。

この後、各国で同様に微生物発酵を利用したグリセリンの製造法の確立が相次ぎました。

更にこの時期、アセトンの発酵とセルロイドの製造法が確立され、セルロイドは写真のフィルム、塗料の原料として利用されるようになりました。

また、この時期は抗生物質が発明され感染症の治療に劇的な進歩がありました。

抗生物質は微生物によってつくれれる化学物質で、この物質は微生物の発育や代謝を阻害することから微生物が原因となる感染症の治療に使われます。

細菌には他の種類の細菌の増殖を阻害する働きがありそれを拮抗現象と言い、抗生物質はこの拮抗現象を利用しています。

世界で初めて人間の治療に利用された抗生物質はペニシリンで、イギリスのフレミングという名の科学者により発明されました。

ペニシリンは実験中たまたまブドウ球菌の培地に青カビが紛れ込み、青カビの周囲のブドウ球菌が死滅していたことから効果が発見され、青カビにちなみペニシリンと命名されました。

その後、ペニシリンは世界中で利用されるようになり多くの人々を感染症から救い、不治の病とされた梅毒なども簡単に治療できるようになりました。

発酵技術の第三期

第二次世界大戦後、50年代から70年代の20年間は戦前の基礎研究の上にこの分野での研究が急激に発達しました。

発酵の技術を利用した食品や飲料の生産技術や微生物が産生する酵素をりようした化学物質や医薬品も次から次へと新しい製品が市場に送り出されました。

この時期の発酵技術に大きな影響を与えたのが生体制御発酵と呼ばれる方法で、本来は微生物の菌体を合成するために使われるべき物質を合成経路から離脱させ菌の外に排出される、いわば異常代謝をおこさせて利用する方法です。

現在ではタンパク質を構成するすべてのアミノ酸が工業生産が可能となり、乳酸や酢酸などの古くから製造されていたものに加え、現在では約65種の有機酸が発酵法により工場生産が可能となっているようです。

また、生体制御発酵により製造可能となったのは有機酸以外にビタミン、ステロイドホルモンなど生理活性物質や医薬品の発酵生産まで行われるようになりました。

更に生体制御発酵は細菌が産生する様々な酵素の大量生産をも可能にして、食品や醸造にとどまらずに医療分野はいうに及ばず洗剤などにも使用されるようになりました。

この時期は高度経済成長による公害や産業廃棄物の問題もありましたが、微生物の働きによる分解で汚水や廃棄物を浄化する方法も確立され環境分野でも微生物発酵が利用され始めました。

発酵に役立つ微生物

発酵に利用される微生物には、大きく分けてカビ、酵母、細菌などがありますが、ここでは主なものをピックアップして解説していきます。

カビ

発酵で最も利用される頻度が高いのがカビです。

カビの菌糸中には核がありその細胞壁にはセルロースやキチン質から構成され中を防御しています。

カビの胞子が飛んで新たな餌場に落下すると胞子は栄養源を摂取しながら発芽し、菌糸を伸ばして一部から枝が分かれ伸びて先端に膨らみを作りそこで胞子を作ります。

この胞子はまた大気中に放出され新たな餌場まで空気中を風邪などに運ばれ落下し、また発芽します。

このようなサイクルでカビは増殖しますが、この増殖のプロセスの中で代謝物質を産生し一部を体外に分泌します。

分泌されたものこそが発酵生産物で、発酵工業などに利用されます。

麹カビ(アスペルギルス)属

オリゼー

日本で最もポピュラーな麹カビで、黄麹菌とも呼ばれ、日本酒、米酢、味噌、味醂、甘酒の醸造に古くから利用されてきました。

原料中のデンプンを糖化してぶとう糖にするアミラーゼと呼ばれるデンプン分解酵素を強力に分泌します。

ソーエ

醤油や味噌の製造に利用される麹で、大豆や小麦などの原料に含まれるたんぱく質を分解し、うま味成分ともなるアミノ酸を生成するプロテアーゼの酵素を強力に分泌します。

ニガー

胞子の色が黒く黒麹菌とも呼ばれ、クエン酸の発酵力が強い工業生産にも用いられる麹です。

また、ペクチン分解酵素力が強いことから、ペクチンを含む果汁やジャムマーマレードの生産にも利用されています。

あわもり

黒麹菌の一種でデンプンを糖化する酵素の働きが強いことから、デンプンを多く含むサツマイモが原料の酒である焼酎や米が原料の泡盛の製造に利用されています。

焼酎や泡盛は九州や沖縄などの温暖な地方で造られますが、このような温暖な地域での発酵ながら有害菌に汚染されないのはこの酵母のクエン酸発酵が強力なためもろみを強い酸性に保ち他の細菌を殺菌するからです。

レペンス

鰹節の製造過程で利用される麹ですが、鰹と相性がよくタンパク質を良く分解し、うま味成分を引き出し、劣化の原因となる脂肪を分解します。

この麹菌は別名かつお節菌とも呼ばれ、鰹節の内部から水分を吸い上げる働きがあるので、鰹節を芯から乾燥させ保存機能を高めています。

青かび(ペニシリウム)属

クリソゲヌム

ペニシリンと呼ばれる抗生物質を生産するときに利用されるカビ菌で大量生産できるのもこの菌のおかげです。

ロックフォルティとカメンベルティ

チーズの生産に使われるカビ菌で、原料である牛乳の中のタンパク質を分解し、チーズ特有の味や風味を引き出します。

ロックフォルティ株を使用して作られるチーズはロックフォールチーズで、カメンベルティ株を使用して作るチーズはカマンベールチーズになります。

毛カビ(ムコール)と蜘蛛の巣カビ(リゾーブス)属

ルーキシアヌス

デンプンを分解する糖化力が強く、アルコール発酵力もあるマルチな働きをするカビです。

プシルス

チーズの製造に必要な乳を固める働きがある凝乳酵素生成菌に分類され、もともとは牛の胃に住んでいる菌です。

この菌の酵素が牛乳のタンパク質を凝固する働きがあることからチーズの製造に使われます。

ジャパニクス

サツマイモを原料とする酒の製造に使われるカビ菌で、デンプン分解能力が非常に高い上に、タンパク質の分解能力も強力です。

デレマー

中国の薬酒から分離されたカビで、デンプンの分解能力が高く100%ブドウ糖にすることができることから、酵素糖化法でのグルコース製造に使われます。

モナスクス属

アンカとパーブレウス

菌糸内に赤色の色素があることから紅麹と呼ばれるカビです。

中国南部で造られる紅酒の麹づくりに使われるカビで、紅豆腐などの製造にも使われます。

酵母

酵母は、カビと比べると大きさは小さく、その形には卵型、球形、レモン型、楕円型などがあり増殖方法は出芽法で行われます。

出芽法とは酵母がある程度栄養を摂取すると母細胞から小さな突起を出してこれが次第に大きくなり子細胞となり、母細胞と同じくらいの大きさになると分離し新しい酵母となります。

このように分裂しながら増殖しますが、増殖を行うときに菌体内に様々な物質が生成され菌体の外にも分泌されますが、これが発酵物質です。

酵母の構造は、外壁をなす細胞壁はタンパク質で構成されており、核、液胞、ミトコンドリアからなっています。

サッカロミセス属

セレビシェ

最もメジャーな酵母でアルコール発酵する力が強く、ビールやワインなど広く醸造に使われています。

サケ

清酒酵母とも言い、日本酒の醸造に使われています。

この酵母は20%もの高濃度ににまでアルコールを精製でき、低温でも発酵できるのが特徴です。

ルーキシ

アルコール発酵能力はそれほど高くないが、15%を超す塩分濃度でも発酵できることから醤油、味噌などの生産に使用されます。

ウバルム

ビールの製造に使用される酵母で、低温でも発酵できる能力を有します。

キャンディタ属

ウチリス

亜硫酸パルプ廃液や木材糖化駅で培養し、その菌体は飼料の生産などに使われています。

リポリチカとトロピクリス

炭化水素を栄養源として増殖するので、石油を使い大量に培養され菌体をタンパク質として利用しています。

細菌

細菌は単細胞で大きさは酵母より更に小さくなり、その形状より球菌、桿菌、らせん状菌、球菌が連なった連鎖球菌などに分類されます。

細菌の増殖法は、二分裂法と言われある程度栄養を取り込むと細胞が大きくなり中に壁ができ2個に分裂しそれぞれが新しい細菌となり更に分裂するという具合に増殖します。

この細菌の増殖速度はカビや酵母に比べると格段に速く、多くの細菌が最適な条件だと20分毎に分裂するので短時間に爆発的に増殖します。

細菌が外壁に細胞壁があり中に遺伝子を含む核、リボゾーム粒子などから構成されています。

発酵に利用される代表的な細菌として下記のものがあります。

乳酸菌

ストレプトコッカスラクチス

この乳酸菌は球形の菌で牛乳に入ると成分を分解し乳酸を産生し牛乳を凝固させるのでチーズやヨーグルトを製造するときのスターターと呼ばれる種菌として使用されます。

ラクトバチルスブルガリクス

この乳酸菌は桿菌と呼ばれる形状で、40度から50度の高温の中でも活動できる強い菌です。

ヨーロッパでヨーグルトの生産に使われる乳酸菌はこの菌です。

アシドフィルス

この菌は乳児の腸内から分離された菌なので、人間との相性がよく腸内で活動できる菌です。

腸内で有機酸を産生して他の雑菌の増殖を抑えることから整腸剤として利用されています。

プランタルム

加工食品の糠漬け(ぬかづけ)を作る時に利用される乳酸菌で、特有の香味を作ります。

ロイコノストクメゼンテロイデス

ショ糖液で培養するとデキストランと呼ばれるブドウ糖を産生し、これは人間の血液の血漿のかわりができることから代用血漿という医薬品として医療現場で利用されています。

ペディオコッカス・ハロフイルス

15%を超える塩分濃度でも発酵することから、醤油や味噌の香味を加える生産助剤として使用されています。

放線菌

放線菌とはど土壌の中に住んでいる菌で、分類上は細菌とされていますが、機能的にはカビと細菌の中間にあると言えます。

ストレプトマイセス属

この属に分類される菌は、抗生物質を生産するために利用されて、グリシュスはストレプトマイシンを、オーレオファチェンスはオーレオマイシンを生産します。

以上のように放線菌には次々と実用性に富んだ菌種が発見され応用されています。

その他の発酵細菌

酢の醸造に用いられる菌を酢酸菌と言われますが、アセトバクターと呼ばれます。

アセチと言われる酢酸菌は、エチルアルコールの水溶液、ワイン、酒粕などのアルコールに作用し発酵することで酢を産生します。

アセトプチクリムと言われる酪酸菌は、酪酸やアセトンブタノールを生産するのに役立ちます。

チーズの熟成には、プロビオン酸があります。

日本の食卓に欠かせない納豆を作る時に使われる菌は、バチルスナットで大豆で熟成されると粘質の物質と独特の香味を作ります。

菌体の外に分泌される発酵生産物

地球上のあらゆる生物は栄養素を体外から取り入れ、代謝をすることでエネルギーを取り出し活動エネルギーにすることで生命を維持しています。

微生物にとっての代表的な栄養源としては、ブドウ糖やアミノ酸で、人間も穀物などに含まれるデンプンを分解しブドウ糖を生成され、それを代謝することでエネルギーを得ています。

また、肉や牛乳などに含まれるたんぱく質は分解されアミノ酸になり、代謝に利用されています。

これら摂取された栄養素を分解する働きをしているのが酵素で、この酵素がないと栄養素を摂取してもそれをエネルギー源とすることができません。

酵素は、特殊なたんぱく質でできており、分解される物質があると作用し物質を分解したり合成したりするタンパク質です。

微生物もこれらの酵素があってこそ菌体内に入った栄養源を分解して代謝をすることができるのです。

この酵素の種類は1000種類が確認されており、現在その中の100種類が結晶として取り出されています。

酵母の発酵であるアルコール発酵では、ブドウ糖からアルコールを生成する代謝をこない、その過程で得たエネルギーにより生命を保っていますが、副産物であるアルコールは人間に利用されています。

つまり、発酵とは菌体内に存在する酵素の作用により、取り込んだ栄養源でエネルギーの摂取が行われ、その代謝の過程で代謝の副産物である発酵物が生産され、菌体外に排出され、菌にとっての廃棄物であるそれら生産物を人間が利用しているのです。

発酵による酒の製造

酒の種類

人類は太古よりアルコールを製造する方法を学び世界中には様々な酒があります。

酒を大きく分類すると下記の三種類に分類されます。

醸造酒

果汁の場合は原料をそのままか、穀物の場合は糖化した後、酵母によって発酵させ濾過させてアルコールを製造する方法です。

醸造によって作られる酒には、清酒、ビール、ワイン、紹興酒などがあります。

蒸留酒

蒸留酒とは醸造酒を蒸留して作られた酒で、アルコール分が高く、樽や壺に入れて長期間熟成させたお酒です。

蒸留によって作られる酒には、ウィスキー、ブランデー、ジン、ウォッカ、ラム、焼酎などがあります。

混成酒

醸造酒や蒸留酒に植物の根、花、実などを漬けてその色や香りをつけ、糖やアルコールを加えて濃厚にしたもので、アルコール度数も高めです。

混成酒には、梅酒、ヴェルモット、チェリーブランデー、オレンジキュラソー他、薬用酒などがあります。

世界各地の酒

酒の名称 酒の種類 原料 発酵微生物 生産国 アルコール度数(%) その他
ワイン 醸造 ブドウ 酵母 世界各国 8~13 生産量の8割は欧州産
シャンパン 醸造 ブドウ 酵母 フランス 9~14 発泡酒
シェリー酒 醸造 ブドウ 酵母 スペイン 7~20 天日で原料のブドウを干し糖度を高めてから仕込む
シードル 醸造 リンゴ 酵母 ヨーロッパ、アメリカ 2~8 発泡酒と非発泡酒がある
ビール 醸造 大麦 酵母 世界各国 3~7 生産量1位はアメリカ、消費量1位はドイツ
ウィスキー 蒸留 大麦 酵母 イギリス、アメリカ、日本、カナダ 40~45 イギリスのスコッチ、アメリカはバーボン
ジン 蒸留 ライムギ、大麦 酵母 オランダ 37~50 杜松(ねず)を蒸留時に加える
ウォッカ 蒸留 大麦、トウモロコシ 酵母 ロシア 40~50 白樺の炭を通して無色透明の酒に仕上げる
ラム 蒸留 サトウキビ、糖蜜 酵母 中南米 37~45 ヘビーからライトまで酒質により分類される
テキーラ 蒸留 アガベと呼ばれる植物 酵母 メキシコ 40~43 アガベの根に豊富なデンプンが含まれる
アラック 蒸留 ヤシ、糖蜜 酵母 南アジア 50~60 蒸したコメや麹を使う場合もある
ブランデー 蒸留 ブドウ 酵母 フランス 40~45 葡萄酒を蒸留し樽で熟成されます
カルヴァドス 蒸留 リンゴ 酵母 フランス 42~45 非発泡のシードル
アクアヴィット 蒸留 馬鈴薯と大麦麦芽 酵母 北欧 55~60 シナップスとも呼ばれ薬草を入れているものもある
コルン 蒸留 ライムギと小麦 酵母 ドイツ 30~40 シナップスとも呼ばれる
ミード 醸造 蜂蜜 酵母 スウェーデン、ポーランド 10~12 蜂蜜を発酵させた後、薬草を入れる
ケフィール 醸造 馬乳 酵母 コーカサス 1 馬入を発酵させた馬乳酒
牛乳酒 蒸留 馬乳 酵母 シルクロード 10 動物の乳を発酵させてから蒸留
白酒 蒸留 高粱、大麦、キビ、豆 カビ、酵母 中国 30~70 中国の代表的な酒で独特な香味がある
黄酒 醸造 うるち米、大麦、小麦 カビ、酵母 中国 13~20 この酒を熟成させたものを老酒という
紅酒 醸造 うるち米、硬米 カビ、酵母 台湾 12~14 酒の出来上がる直前に酒を加える
マッコリ 醸造 うるち米、硬米、小麦 カビ、酵母、麹 韓国 13~14 飲酒時に水で薄めて6度くらいにする
チャン 醸造 うるち米 カビ、酵母 ブータン、ネパール、チベット 3~4 この酒を蒸留するとロキシという酒になる
清酒 醸造 酵母、麹、乳酸菌 日本 15~23 世界で最もアルコール度数が高い醸造酒
焼酎 蒸留 米、麦、甘薯、黒糖、トウモロコシ 麹、酵母 日本 20~45 甲と乙があり甲は連続式蒸留機で、乙は単式蒸留機で造られる。

酒は世界各地で昔から存在し、日本の清酒、中国の白酒、イギリスのウィスキー、ドイツのビール、フランスのブランデー、イタリアのワイン、ソ連のウォッカなど各国独特な酒があります。

酵母によりアルコール発酵し酒ができるには、糖分が必要なので穀物原料の糖化の技術がなかった太古の酒は、北方では山ブドウやキイチゴ、南方ではパイナップルやヤシなどが原料に使われました。

一万年程前の時代になると、ナイル河畔で小麦、インドや中国で稲、東南アジアでは稗などが栽培され始め農耕時代が始まるとともに穀物を原料とした酒も生まれ始めます。

これら農耕社会を営む中で、貯蔵や調理の時に発芽した穀物が甘くなりその水が酒になっていたことや、米を煮炊きしたものにカビが入ったものが酒になっていたことが想像できます。

麦芽もカビも穀類の成分であるデンプンを分解しブドウ糖にする酵素があるので長い歴史の中で酒の造り方を発見したのでしょう。

また、人類最古の文明と言われるメソポタミア文明でも発掘された文献に酒の造り方が書いてあったそうです。

発酵によるアルコール製造

糖を酵母で発酵させ蒸留させるとエチルアルコールができますが、西洋では麦芽の糖化酵素を用いて、東洋ではカビの糖化酵素を用いて原料の穀物に含まれるデンプンを分解し麦芽糖やブドウ糖を得て、酵母により発酵させエチルアルコールを製造します。

糖蜜から繰り返し蔗糖を回収した廃糖蜜を主原料として酵母で発酵させ製造する方法も広く普及しています。

工業用のアルコールは、エチレンから合成され溶剤や化学工業の原料に利用されています。

飲料や食用に使われるアルコールは発酵法により生産されたアルコールに限られています。

発酵によるパンの製造

パンを発酵の有無から分類すると、パンを作る時に原料である穀物に水を加えこねたものをドウと言いますが、ドウを発酵させ焼くパンと、ドウを無発酵のまま焼くパンがあります。

発酵パンの歴史は、人類の穀物摂取の文化の進展とあわせて進んできました。

小麦の栽培は1万年前程から行われ、収穫した小麦を粉にして食べ始め、時代が進むと小麦を粉にして水を加えて粥状にして食べるようになりました。

この小麦の粥がおそらく熱い灰や焼け石にこぼれて焼かれることによりパンの原型ができたのでしょう、更に時代が進むとこれを平焼きにして食べるようになります。

このような食習慣の中、パン焼き用にとっておいた粥に酵母が入り発酵をおこし、これを焼いたところその独特な風味と美味の上に食感も良くなったことから発酵パンの作り方が広がっていったのだろうと想像されます。

既に6000年前のメソポタミアでは発酵無しの焼きパンがあったことが文献で確認でき、古代エジプトでもメソポタミアの影響を受けパンがあったとされ、古代中国でも発酵パンが作られていたとされます。

その後パンはヨーロッパに渡り長い歴史の中で進展し、日本で食べられているものはヨーロッパ経由で伝えられてものです。

ですので日本ではパンというとヨーロッパをイメージしますが、ユーラシア大陸には様々な種類のパンがあります。

中国北方の麦作地帯には饅頭がありますし、インドやパキスタンの南アジアでは無発酵の焼きパンのチャパティーや発酵させた焼きパンのナンがあります

ナンは日本でも一般的になり始めたパンですが、ナンは発酵したパンで一晩寝かしたドウを高熱のかまどの内側に貼って焼き上げたもので、これにカレーや調理した肉などと一緒に食べるものです。

中東ではこのナンをもっと薄くして焼いた、タンナワー、かまどの底で焼いたバラディー、エチオピアには同種の発酵パンのインジュラがあります。

パンの製造での発酵の役割は、まずはパン生地を発酵させるとことでパンに独特の風味を与え、発酵で生じる炭酸ガスがパン生地を膨張させ生地の食感をふっくらもちもちさせ独特な舌触りや歯ごたえを生みます。

発酵させてから焼いたパンと発酵させないで焼いたパンは香りで七倍も違うとされ、このように発酵は焼き上がったパンの風味を左右します。

このパンの製造に使われる酵母は、サッカロミセス・セレビシエと呼ばれる菌種で、原料の状態で1g中に約140億個も含まれているそうです。

発酵による乳製品の製造

乳加工品の歴史

哺乳類の特徴は、親が赤ちゃんを乳で育てるという特徴があり、動物によって期間は様々ですが幼児期は母の母乳だけを飲んで成長します。

そして、人間だけが他の動物の乳を利用して自らの食料にする唯一の動物で、最初に動物の乳を利用したのは6000年前の中央アジアで家畜として飼っていたヤギや羊の乳を利用したのが始めであるとされます。

そして時代は進みおよそ今から2000年前にエジプトでも動物の乳が飲まれるようになりましたが、農耕文化が定着して麦の栽培が始まったころです。

紀元前4000年ころにはメソポタミアで乳牛の飼育、搾乳、乳の加工が行われ、同じ時期の中央アジアではチーズが製造され始めています。

更に時間が進むとこの乳文化はトルコやギリシアに広まり、文明の交流によりヨーロッパ全土へチーズの製造法が伝わっていきました。

日本では奈良は平安時代に酪と呼ばれる乳加工品が伝わりましたが一般には普及せず、本格的に日本に乳加工品の消費と製造が定着したのは19世紀に北海道でチーズの製造が始まってからです。

チーズ

チーズは牛乳、脱脂乳、クリーム、ヤギの乳などを原料に乳酸菌と凝集酵素を加え、できたものからホエーを除去して完成します。

凝集酵素とは、講師の第四胃で分泌される凝固酵素でレンニンと呼ばれ、乳酸菌の発酵により生成された乳酸の存在下で乳に加えると乳を凝固する働きがあります。

昔は子牛の胃から取り出していましたが、現在はカビの一種であるムコール・プシルスと呼ばれるカビの酵素が乳を凝固させる性質を持つことが発見され、製造に使われています。

チーズの製造プロセスは、原乳の殺菌→冷却→ろ過→乳酸菌スターターの添加→凝固酵素の添加→ホエーの除去→加塩→型詰と圧搾→熟成となります。

最後の塾生の時に乳酸菌が増殖し代謝することでチーズに特有の風味が生まれます。

チーズの種類によっては、熟成に乳酸菌以外の微生物を用いるものがあり、フランスのカマンベールチーズでは青カビであるペニシリウム・カマンベルティを使い、スイスのエメンタールチーズではプロピオン酸菌を使い特有の風味を生み出しています。

日本国内ではチーズの生産量は約2万トンで、その4倍の量がデンマーク、オランダ、オーストラリアから輸入されています。

バター

牛乳からクリームを脂肪含有率30%で取り出し、これを撹拌することで脂肪粒子を包む膜を壊し、露出した脂肪粒子を固めたものがバターです。

原料となるクリームは発酵させないものと、乳酸菌で発酵させたものがあり発酵させる場合はストレプトコッカス・ラクチスとロイコノストク・シトロボルムが使用されます。

世界で生産されるバターは年間280万トンで、日本では6万5000トンが生産されています。

ヨーグルト

原料乳に乳酸菌を添加して発酵させ、乳酸により乳の中に含まれるたんぱく質を凝固させたものがヨーグルトです。

ブルガリアのヨーグルト文化に注目したメチニコフによりこの食品が健康に良いことが世界に広められました。

発酵による肉加工品の製造

日本食は昔から発酵食品として魚介を中心としたものが多かったのですが、西洋では肉食が中心だったので、西洋には肉を微生物の発酵により香味を付け、防腐効果を持たせた食品が古くから存在しました。

代表的な肉の発酵加工食品は、サラミソーセージ、ジューアソーセージ、ペパロニソーセージなどのドライソーセージから、チューリーンガーソーセージ、セルベラートソーセージ、モルタデラソーセージなどのセミドライソーセージがあります。

その他にスコッチハム、ウェストファリアンハム、スミスフィールドハム、プロシュートハムなどのカントリーハムなどにも発酵させたものもあります。

ドライソーセージの生産工程は、キュアリングと呼ばれる肉の塩漬けの粗びきした肉が原料となり、食塩や香辛料を加え牛の大腸に詰めて、1~3か月の間熟成と乾燥をさせます。

肉を乾燥させることにより水分量が35%以下となり、相対的に食塩濃度が増えて、乳酸菌発酵がおこりphが下がることで産生となり雑菌の増殖が抑えられ、保存性があがるとともに乳酸菌発酵による風味が加わります。

ドライソーセージやカントリーハムの製造工程で加熱工程がないので加熱殺菌していませんが、有害菌などが付着したままですが乳酸菌発酵の過程で殺菌されるので腐ることなく保存できるのです。

以前はこのキュアリング期間を長くすることで自然に混入する乳酸菌で発酵がなされていましたが、現代の製造では原料肉にミクロコッカス属の硝酸還元菌やラクトバチルス属などの乳酸菌をスターターとして発酵を目的に添加されます。

製造工程で添加される発酵菌による代謝は腐敗菌や悪変菌の増殖を抑えるだけではなく、原料肉をキュアリングをする時に染色固定のために添加された硝酸塩の残存量を減らし、風味を加え保存性を高めるなど様々な効能を与えます。

また、西洋では発酵菌だけではなく原料肉の外皮に青かびを添加して発酵させる製法も存在します。

発酵による漬物の製造

日本食の中での漬物は無くてはならない存在ですが、漬物を発酵の有無で分類すると、微生物の関与がない無発酵漬物と微生物が関与する発酵漬物、微生物の発酵生成物を利用した漬物の3種類があります。

無発酵漬物には梅干し、紅ショウガ漬けなどがあり、発酵漬物には野菜の粕漬け糠漬けがあり、発酵生成物を利用したものには麹付けや味噌漬けがあります。

そして、世界には様々な種類の漬物が存在します。

ザワークラウト

ザワークラウトはドイツの漬物で「酸っぱいキャベツという意味があり、英語ではサワークラウトとも呼ばれます。

ザワークラウトの作り方は洗ったキャベツを短冊状に切り陰干しした後、塩でもみながら樽に入れて発酵させます。

蓋の上に重しを載せて1か月ほど発酵させると中で乳酸菌による発酵が起きて酸味のある漬物ができあがります。

酸味の元となる乳酸の濃度は1.5%前後となりすっぱい発酵野菜となることから脂っこい西洋の料理にはぴったりな味になります。

ピクルス

キュウリ、トマト、玉ねぎなどを乳酸発酵させてつくる漬物がピクルスで、日本でも食卓の定番になりつつあります。

ディルピクルスは、野菜を食塩水、酢、スパイスなどで漬け込んだもので、ピクルスの中でもメジャーな存在です。

ザーサイ

中国の漬物と言えばザーサイですが感じでは搾菜と書き、四川省が発症の漬物です。

大芯菜を原料として葉は取り除き茎を縦割りに切った後天日に干して乾燥させます。

乾燥させたものを白酒で塩を8パーセントの濃度で1週間漬け込み下漬けとします。

下漬けされたものに香辛料を加え5パーセントの塩分で1年間発酵させながら漬け込んで熟成させ完成品となります。

この発酵・熟成過程では乳酸菌や酪酸菌が発酵を手伝います。

キムチ

日本の食卓でも定番となった韓国の漬物がキムチです。

白菜を縦に4つに割り2パーセントの食塩で一晩漬けて下漬けとします。

本漬けではトウガラシ粉、ニンニクすりおろし、しょうがのしぼり汁、小魚や小エビの塩辛などを混ぜて食塩を加えて漬けます。

このように漬けたものを3日間程度漬け込むことで乳酸菌による熟成発酵がおこり独特の風味となります。

漬け込みに使う魚介の知るには各家庭で秘伝があり、するめや貝柱などだし汁を使うものまで様々あります。

日本の漬物

日本の発酵食品である漬物は世界有数の豊富さを誇り、その歴史も深く縄文時代には既に存在していたとされます。

これが奈良時代になるとナズナ、わらび、せり、あざみ、ふきなどの山菜や瓜、ナス、みょうがを塩、味噌、醤油、酒粕などで漬け込んだ漬物が書物にも登場します。

日本で漬物などの発酵食品が様々誕生した理由は、味噌、醤油、麹、酒粕、糠などの漬け床となる調味料が揃っていたのと野菜や魚介などが豊富にとれた風土が可能にしたものと思われます。

日本の漬物で微生物による発酵を利用したものは、糠漬けや塩漬けがあります。

漬物の発酵に利用される菌としては、耐塩性を持つ乳酸菌や酵母があり、これらの菌は有機酸や硫黄化合物を産生することから独特の風味を食品に与え、食品の防腐効果を高めています。

漬物の発酵に利用される酵母は、アルコールやエステルを生成し、食品に香味を与えています。

日本の漬物で最も家庭に親しみのあるものと言えば糠味噌ですが、この糠味噌1グラムには3億個の乳酸菌や酪酸菌、酵母菌が含まれているとされます。

糠味噌の原料の米ぬかには発酵微生物にとって生育に必要な炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンなどが豊富に含まれるのです。

ビタミンは漬物に吸着され、発酵により生成されたビタミンも含まれることから栄養価の高い食品として古くから日本人のビタミンの補給源となってきました。

糠漬けは連続発酵が可能なので、上手に手入れをすれば常に新しい野菜を漬物にすることが可能な便利な漬物でもあります。

発酵による食酢の製造

食酢は英語では、ビネガーvinegarと表記されもともとの語源は酸っぱい葡萄酒という意味があります。

酒のアルコールを酢酸菌で酸化発酵すると食酢になりますが、発酵のほとんどがブドウ糖を分解するのに対して、酢酸菌はアルコールを分解し発酵します。

空気中には目には見えませんが多くの酢酸菌が浮遊しており、酒類の保管を間違えると簡単に酢になってしまいます。

偶然できてしまった酢ですが、現在は食用の酢が工業製品として生産され様々な料理に使われています。

一般的な食酢はアルコール酢で、最も製造に使われる酢酸菌がアセトバクター・アセチ菌でこの酢酸菌は、アルコールを参加させて酢酸酢を発酵生産しています。

酢酸を工業的に生産する方法は、発酵塔を利用する速醸法と呼ばれる生産方法が主流で、10パーセントのアルコールを原料に10日程度の発酵によりすべて酢酸になります。

この方法より発酵の効率を著しく高め、発酵時間を短縮させた方法が深部培養法と呼ばれる発酵方法です。

これは、発酵タンクの真ん中に回転翼を設置し回転させることで無菌空気の泡を作り出し、これにアルコールを含む発酵液を添加して混合させることで、酢酸菌の酸化発酵を促進させる方法です。

その他、ヨーロッパでは麦芽酢や果実酢などがあります。

麦芽酢はアメリカでは主流で大量に生産され、大麦、小麦、トウモロコシなどの澱粉原料を麦芽で糖化させ麦芽糖をつくり、これを酵母で発酵させた後、酢酸菌で発酵させ作ります。

果実酢は、ブドウやリンゴの果汁を酵母により発酵させ果実酒を作り、果実酒を酢酸菌で発酵させ作るので果実の香味が酢にも反映されます。

日本の酢は、米酢が主流で奈良時代から作られた伝統的な調味料です。

蒸した白米に麹を加えて糖化して、これを酵母で発酵させ酒を造り、これに酢酸菌を加えることで酢酸発酵させ作ります。

他にも、酒粕に含まれるアルコールを酢酸菌で発酵させ酢を作る方法もあります。

日本食にとって酢は欠かすことのできない調味料で、最近では黒酢やリンゴ酢などが健康に良いことから健康食品としても飲まれています。

発酵による醤油の製造

醤油は東アジア全域で使われる一般的な調味料ですが、日本には弥生時代から大和時代に伝来したとされ、平安時代には広く一般に普及しました。

古来日本では穀物を原料にしたもの、肉を原料としたもの、魚を原料としたものがありましたが、魚を原料としたものが最も普及していました。

この魚醤と呼ばれるものは中国南部や東南アジアなどで古来から使われている調味料で、蝦や魚を原料に調味料が作られているので、日本に伝来したものは魚介類の発酵物として伝わったのではないかと考えられます。

日本の醤油づくりには麹カビが使われ、この麹カビは植物性タンパク質を良く分解する酵素を持っており、うまみ成分であるアミノ酸を多く生成されことから、醤油に独特の風味を与えています。

醤油が製造される時は、麹カビ、酵母、乳酸菌などの微生物が発酵に使われます。

蒸した豆と煎った小麦を麹菌を混ぜて麹室でおくと、麹カビが増殖して醤油麹ができます。

醤油麹の中には麹カビの産生したタンパク質を分解する酵素が多く含まれ、発酵する時に原料に含まれるたんぱく質を分解し、アミノ酸を産生します。

醤油麹に食塩を加え水を加えて桶に配合したものを諸味と言いますが、諸味は麹に付着している耐塩性の酵母や耐塩性の乳酸菌が増殖し発酵がおこります。

一年間ほど発酵・熟成を行っている間、これらの微生物がアルコールや有機酸を産生し醤油特有の風味が出来上がるのです。

醤油諸味には18%程度の塩分を含むのでほとんどの微生物は死滅し発酵に役立つ微生物だけが残ります。

現在の醤油製造では、純粋培養した耐塩性酵母や乳酸菌を諸味の段階で添加して製造期間を短縮させています。

東アジアには、中国の醤、朝鮮のカンジャン、タイのナンプラ、フィリピンのパティ、ベトナムのニョクマムなどの醤油がありますが、製造方法は日本のものとは大きく違いがあります。

東アジアから日本に伝わった醤油ですが、2000年間の期間で日本独自のものに進化を遂げたのです。

日本の醤油はソイソースとして欧米でも使われるようになり、年間一万キロリットルの醤油が世界に向けて輸出されています。

発酵による味噌の製造

味噌の種類

味噌は日本各地で独自の発展を遂げ生産地と消費地が密着して発展したことから地方色が濃く出た調味料です。

そのため、味噌の種類を分類すると、味噌の名前の頭に生産地の地名を冠しているものが多いのが特徴です。

日本各地に存在する味噌は生まれた土地の気候や風土、農作物、地元民の嗜好により味や色に特色が出ています。

分類法 原料と種類 味噌の名前
原料による分類 米味噌(米麹・大豆)
麦みそ(麦麹・大豆)
豆味噌(大豆麹)
信州味噌、仙台味噌、京味噌
麦みそ、田舎味噌
八丁味噌、溜味噌
味付けによる分類 甘味噌
甘辛味噌
辛味噌
西京味噌、江戸味噌、府中味噌
相白味噌
八丁味噌、信州味噌、仙台味噌
色による分類 赤みそ
白味噌
西京味噌以外の味噌
西京味噌

味噌の栄養

味噌に含まれるたんぱく質は麦みそで10%、豆味噌で18%ほどタンパク質が含まれ、米やイモなどを主食としたデンプン主食型の日本人にとって大切なたんぱく源となってきました。

また、味噌のタンパク質を構成するアミノ酸はリジンやチロシンなどの必須アミノ酸が多く、当時の日本人に不足がちなビタミン類や無機塩類も含まれることから日本人を栄養面で支えてきました。

発酵により産生されたリン脂質も多く含まれますが、この物質は細菌の働きを活性化させる働きがあります。

味噌の歴史

味噌は大豆と米麹に食塩を添加し発酵したものを固形化した調味料です。

味噌に出汁をいれて具を足すことでスープを作れ、海外では味噌スープとして普及しつつあります。

歴史上に登場するのは701年の大宝令という書物に登場し、未醤と呼ばれていたようで、やがて味噌とよばれるようになったと推測されます。

醤油の原型は海外からきましたが、味噌は日本独自に生み出され発展した発酵調味料です。

なめ味噌

味噌には嘗味噌(なめみそ)と呼ばれる惣菜味噌があり、通常の味噌に具を混ぜて作った加工嘗味噌と微生物の発酵を応用した発酵嘗味噌があります。

前者には鯛嘗味噌、牡蠣味噌、柚子味噌、葱味噌、鉄火味噌、海老味噌、時雨味噌、胡麻味噌、くるみ味噌などがあり、ご飯のおかずや酒の肴に古くから親しまれてきました。

後者には金山寺味噌があり、大豆を煎って臼で引き割り、大麦を加えてセイロで蒸した後麹カビを加え麹として、瓜、生姜などとともに塩を加えて酵母と乳酸菌で発酵させたものです。

その他にも発酵嘗味噌には、野鳥の肉を細かく刻み麹、味噌、塩で漬け込み発酵させたものや、カツオを刻み麹、味醂、塩を漬け込み発酵させたカツオ味噌などがあります。

発酵による納豆の製造

納豆の種類

日本の代表的な発酵食品として納豆がありますが、納豆には2種類があり一つは寺納豆と呼ばれる塩辛納豆で、もう一つは一般的な食卓にのぼる糸引き納豆です。

塩辛納豆

糸を引かない塩辛納豆は奈良時代に大陸から伝えられたもので、大豆の塩漬け食品で昔はクキと呼ばれていました。

京都では大徳寺や天龍寺と言った寺院で作られたことから寺納豆とも呼ばれましたが、浜名湖の大福寺でも作られそれが特産品となったことから浜納豆とも呼ばれていました。

塩辛納豆の作り方は、大豆を煮た後麹菌を添加して大豆麹をつくり、これに塩水を浸して3~4か月発酵させることで耐塩性の酵母と乳酸菌だけが残り発酵させた後、これを自然風で乾燥させることでできあがります。

この納豆の一粒一粒には非常に多くタンパク質が含まれる上にビタミンやミネラルなどの栄養素も豊富で保存性も良いので重宝されてきました。

糸引き納豆

糸引き納豆は1000年前に日本で生み出された発酵食品で、室町中期ころとされます。

江戸時代になると納豆売りが江戸の市街で売り歩く姿が良く見られ、庶民の食卓にのぼるようになり、朝食にみそ汁と納豆という二大発酵食品が定番となりました。

この納豆は寺納豆とは異なり、大豆を煮てこれを稲わらでくるみ保温すると、藁の中に生息していな納豆菌が大豆の上で大量に増殖し、発酵することで特有の風味とねばねばの粘液に包まれた納豆ができあがります。

現在の製造法では藁で包むことはせずに培養してある納豆菌を添加して発酵させます。

通常の大豆に比べ納豆菌により発酵された納豆はビタミンB2が10倍も含まれ、その他ビタミンB1,B6,ニコチン酸などのビタミンも豊富でタンパク質も含む栄養食品です。

これは納豆菌が発酵する時に多くのビタミン類や有機酸、デンプンやタンパク質の消化酵素を生成し菌体外に分泌するからです。

更に糸引き納豆はデンプンやタンパク質と分解する消化酵素を多く含むことから、納豆は原料の大豆に比べ消化も良く吸収も早いことから粗食であった昔の日本人にとって栄養価の高い食品だったのです。

日本以外の納豆

インドネシアのジャワ島には大豆をカビによる発酵で造るテンペ、ヒマラヤ付近のネパールやブータンにはキネマと呼ばれる納豆があります。

インドネシアのテンペはジャワ島で保存食として食べられたものがインドネシア各地に広がった伝統的な発酵食品です。

作り方は大豆を煮た後型に入れてクモノスカビを添加して30度の温度で3日間発酵すると出来上がります。

テンペの表面にはカビの菌糸で包まれ、カマンベールチーズのように見えます。

発酵中には有利不飽和脂肪酸が産生されビタミン類も産生されることから非常に栄養価の高い食品となります。

テンペの食べ方は、そのまま食べるわけではなく、これを油で揚げたり、料理の素材として調理されます。

台湾には紅豆腐と呼ばれる発酵食品があり、これは豆腐を乾燥させた後に紅麹菌を添加して発酵させることで作ります。

納豆のねばねば成分

納豆特有のネバネバ成分ですが、これはアミノ酸の一種であるグルタミン酸がポリペプチドと結合し、更に果糖の重合体が結合したもので納豆に2パーセント含まれます。

納豆菌がなぜこのようなネバネバ成分を生成するのかはまだわかっていません。

発酵による魚介類加工食品

鰹節

外国人が日本に着くとまず感じることは、かつお節んにおいがすると感じることが多いようです。

日本食の味付けには必ずと言って良いほど入っているので、日本人が気づかないだけで外国人には日本独特のにおいに感じるのかもしれません。

この鰹節は平安時代に登場した保存食であるとされ、現在のような燻製として定着したのは江戸時代中期です。

鰹節の製造方法は、鰹を三枚おろしにして2時間ほど煮てから冷やしてから骨を抜き木の箱に数枚づつ入れて、燻してから乾燥させます。

この焙煎では85度の温度で約1時間程燻し5日間ほど続け、最後に4日間ほど天日で乾燥させます。

これを船の形に削り成形し4~5日間乾燥させてから、麹カビが多数生息している容器に入れて2週間おいておくと表面にカビが付着し、この後に胞子を払い乾燥させると完成します。

鰹節の発酵に使われるカビは、麹カビの一種であるスペルギルス・レベンスという細菌です。

鰹節の硬さの秘密はこのカビの発酵と関係しており、この硬さは乾燥や燻しただけでは水分が内部に残りここまでは乾燥しません。

鰹節の表面に付着したカビはその生育のために水分が必要となるので、鰹節の内部から水分を吸収するので更に水分が吸収されこの鰹節の硬さになるのです。

この時にカビが生成した分解酵素は鰹節に含まれる脂肪を分解し脂肪による酸化を防ぐことから保存性が向上します。

また、カビのタンパク質の分解酵素が鰹節のタンパク質を分解しイノシン酸と呼ばれるアミノ酸はうま味は鰹節のうま味を最大限引き出します。

熟鮓(なれずし)

魚をカビで固形状に発酵させたのが鰹節ですが、細菌や酵母により固形状に発酵させたものが「なれずし」と呼ばれる食べ物です。

なれずしは、魚を米と一緒に重石で圧縮し、乳酸菌を利用して発酵させたもので、近江地方の名産である鮒鮓が有名です。

なれずしのような食品は、中国や東南アジアにも存在し日本に稲作が伝わった時に流入したものであると考えられます。

タイ・ラオス・カンボジアにもなれずしを作る文化があり、東南アジアのこのあたりがなれずし発祥の地ではないかと考えられています。

これは魚や肉を長期間保存する方法として続いてきた伝統的な調理方法であるのでしょう。

中国では紀元前にはこのような食品の加工法が存在し、魚の発酵食品を鮓、魚の塩辛を鮨と呼び古くから食されてきました。

日本のなれずしはサバ、マス、鮭、ハタハタなどを原料に日本海側の各地で発展してきました。

例えば、秋田県のはたはた鮓、しょっつる、石川県のイカの塩辛やイワシの糠漬けなど魚介の発酵食品は日本固有の発酵食品です。

日本に伝来したすしは熟鮓(なれずし)が最初であったとされ当初は魚の保存が目的だったとされ、多くが飯鮓と呼ばれる米と一緒に発酵される方法が主流です。

飯鮓(いずし)の作り方は、炊いた飯と魚を一緒に重石で圧縮しながら乳酸菌により発酵させます。

乳酸菌は米に含まれるデンプンをブドウ糖に分解し乳酸発酵を起こすことで乳酸を生成させます。

乳酸菌以外にも酵母菌や酪酸菌、プロビオン酸菌が自然に混入し発酵を起こすことで、魚の臭みを消し独特の風味をつけるような各種有機酸が生成されます。

このように漬け元自体が有機酸により酸性に保たれるようになると防腐効果を持った食品になります。

乳酸を産生する発酵をすると魚介類特有の臭みは有機酸により分解され、乳酸菌はビタミン類を産生することから昔から大切なビタミン補給源としても重宝されました。

さらになれずしに含まれる乳酸菌や酪酸菌は人間の大腸まで生きて届くことから整腸作用としての働きも見逃せません。

魚醤

魚醤や塩辛も魚介類を原料とした発酵食品です。

これもなれずしと同様に大陸から伝来した食品であると考えられています。

日本で代表的な魚醤は秋田のしょっつるで、はたはたと呼ばれる魚を原料に、米、麹、塩を加えて風味を付けるために昆布やゆずを混ぜて樽に漬け込み1年~3年の期間発酵させることで作られます。

麹に含まれる分解酵素が原料の魚のタンパク質や脂肪を分解することで特有の風味を生み出します。

漬け込む前は臭みのあった魚も発酵すると消えて、うま味や風味を生み出します。

他には香川県にはいかなご醤油、石川県や富山県にはいしると呼ばれる魚醤があります。

塩辛

塩辛は日本の食卓には一般的な食品で、イカや鰹の内臓に含まれる消化酵素を利用して食塩を加えてうま味を短期間で引き出す早塩辛と、食塩を加え数か月間微生物に発酵させた発酵塩辛の2種類があります。

更に発酵塩辛には原料の魚介と塩だけで発酵するものと、麹や米を加えたものが2種類ありますが、両方とも乳酸菌や酵母により発酵させて製造されます。

これら発酵により保存性を高めるとともに、独特な風味が加わります。

くさや

原料の魚自体を発酵させるわけではなく、魚の煮汁を発酵させたものに原料の魚を漬け込むこんだ後に乾燥させたものです。

新島、大島などの伊豆七島は豊富な漁場が近くにあることから昔から干物などの魚の加工が盛んで、くさや自体は江戸時代に製法が確立した食品です。

作り方は原料の魚を腹開きにして、内臓を取り出した後にくさや汁に2時間ほど漬けた後、天日に干しこれを何回か繰り返した後完成します。

くさやの漬け汁には、酵母菌などが大量に含まれておりこれら微生物により魚のタンパク質や脂質を分解することで独特な風味を生み出します。